聖なる山
幾つになっても、初めて体験することは心躍るものがあります。
皆さんは、安土山の東側、安土側から見るとちょうど匠の里の裏側、現在は東近江市南須田町になる山の中腹に、岩駒出雲神社という社が鎮座しているのをご存知でしょうか。今日と明日、普段は人が立ち寄らないようなこの社で、祇園さんと呼ばれる祭礼が行われます。今年から上豊浦の宮世話(神社の維持管理に当たる役)が回ってきた関係で、初めて祭礼の準備に参加することになりました。
毎年、この時期になると「岩駒出雲神社祇園祭礼斎行について」という文書が配布されていたので、こういうお宮さんがあるということは知っていましたが、何処にあるのか、どうして上豊浦にこのお知らせが来るのか、考えたこともありませんでした。
祭礼の準備に集まった場所は、下豊浦の安土公民館(コミセンではありません。「安土公民館」という集会所が安土という集落にあるのです。)の前にある神輿蔵です。ここからトラックに神輿を積み込み、出雲神社に向かいます。向かった場所は東近江市きぬがさ町城東草の根ハウスの近くの民家の前。ここで神輿や祭礼に使う道具を下し、みんなで神輿を担いで、私有地のような細い道を通り抜けると、民家の裏は神社の境内。道はけっこう急な石段になり、上の方に社が見えてきます。年に1回の祭礼なので、ふだんは草わらになっているのですが、安土地区の若連中の皆さんが、除草作業をして、今日の日を迎えたとのことなのです。
この神社の参道は、北原の方から安土山を越えて行くのが正式なルートで、30年ほど前までは、神輿を担いでこの山の中の参道を通って社に行っていたそうです。
ところで、この神社の祭礼に参加しているのは、下豊浦の安土・東・永町・平井の4地区と上豊浦、桑実寺。以前は北原も参加していたそうですが、いつの頃からか離脱し、現在は6つの地区の祭礼になっています。今、この祭礼を中心になって支えていてくれるのは安土地区の人たちですが、祭礼の本番に上座に座るのは桑実寺なのだそうです。安土山の東側、旧能登川町にある社。それを守っているのは安土の6カ村。そして何故か祭礼の主は桑実寺の人たち。更に興味深いのは、この社は安土城築城以前からこの場にあり、城が完成した後も移動させられることなくこの場にずっとあったらしいということです。
実はよく調べてみると、安土山には岩駒出雲神社の他にも、安土城以前から場所を変えることなくずっと鎮座している神社や寺院があり、また安土城の天主に向き合う頂きにある通称八角平には大きな山岳寺院のような建物が存在したこともわかっています。安土城があったことで名高い安土山ですが、実は安土城ができるずっと前から、人々の信仰を集める聖なる山だったのではないのでしょうか。
初めて行った小さな社から、安土山に秘められた物語が広がってきました。
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